BOPビジネスとソーシャル・ビジネスの違いは?

 BOPビジネスとソーシャル・ビジネスの最大の違いは、その目的にあります。前者は、あくまでも従来と同じフツーのビジネスなので、利益の追求が目的です。後者の目的は、ミッションの追求(=社会的課題の解決)です。
 私たちの社会(先進国社会であろうと途上国社会であろうと)には、いつも数多くの問題が存在しています。それをニーズと捉えてビジネスにするのがBOPビジネスであり、それを社会的課題と捉えて解決しようとするのがソーシャル・ビジネスです。結果として、その問題が解決されるならば、両者を区別して考えることに、それほどの意味はありません。
 ポイントは、両者とも事業を継続しておこない、ニーズの充足あるいは課題の解決を図っていくためには、適正な利益を出し続けていかなければならないということです。赤字では必ず行き詰りますし、ボランティアや寄付に頼っていたのでは一時的な取り組みに終わってしまいます。
 出た利益を株主に分配するのがBOPビジネスで(あくまでもフツーのビジネスですから)、利益を再び社会的課題解決のために使うのがソーシャル・ビジネスです。目的は違っていても、両者に共通するのは「利益」と「継続性」です。これら2つが成功のための必須要因です。
 ユニクロバングラディシュで始めるのは、ソーシャル・ビジネスであると自ら言っています。パートナーであるグラミン銀行のユヌスさんが、BOPビジネスという言葉を狭義に捉えてしまっていて、嫌っているからでしょう。もちろん、ユニクロバングラでのビジネスから利益を得ないでしょう。とはいえ、それ以上の効果を期待していることは当然です。社会から注目を集める広告宣伝効果、社会的責任を積極的に果たしていると世間に訴える戦略的CSR効果、企業イメージの向上効果、などなどは数字に表せなくても非常に大きいのです。
 かつて1990年代に児童労働問題が発覚して、ナイキがすさまじい非難の嵐に見舞われたことを、ユニクロも意識しているはずです。ナイキやユニクロといった縫製業とのかかわりが深い企業の場合、今もいつどこで児童労働や人権侵害といった問題が発覚して火を噴くか分かりません。これに先手を打っておくという意味もあります。「利益」を徹底的に追求するユニクロが、単にミッションの追及だけでバングラに進出するはずがないのです。ユニクロの2005年のスローガンは「儲ける」です。それは、フツーのビジネスをおこなっている企業なので当たり前のことです。
 日本の一部では、BOPビジネスが誤って理解されています。儲からないビジネス、慈善事業に近いビジネス、あるいはCSRの一環といったような誤解です。これらはすべて誤りで、BOPビジネスはフツーのビジネスなのです。従来対象としてきて顧客層よりも、より低所得な層をターゲットにするというだけの話です。そのために、新しいビジネス・モデルが必要とされるのです。
 不幸にも、おかしな誤解のために、日本ではBOPビジネスという言葉よりも、ソーシャル・ビジネスという言葉が好まれる場面があるかもしれません。あるいは、BOPソーシャル・ビジネスなどという、わけの分からない造語も出てきています。いずれにしても、呼び方はあまり関係がないのです。大切な点は、ビジネスの手法で途上国低所得層にアプローチするということです。そして、これが今後の主流になって行きます。


 なお、BOPビジネスの対象は途上国低所得層に限定される一方で、ソーシャル・ビジネスの対象は途上国とは限らず先進国内でのビジネスも含みます。