時代の鍵は「多様性」、「柔軟性」、「思考力」

 昨日、丸の内「ビジネス・イノベーション・ファーラム」に出席する機会を得て、社会起業家として活躍されているお二人の方(河瀬謙一氏、三浦健次氏)の話を伺いました。とても有意義な2時間を過ごすことができ、スピーカーと主催者の方に感謝いたします。このフォーラムの中で改めて思ったことは、時代のキーワードは3つ、「多様性」、「柔軟性」、「思考力」であるということです。そして、「よい社会を創る」という使命をもって、多くの所に既存の枠組みを超えて活躍している人たちがいることを知りました。
日本人は価値観に多様性がなく、自由な発想に乏しいのです。そして自分の頭で考えることをしません。もちろん日本人には優れている点はたくさんありますが、これからの時代を創る若者は、これまでの日本人の欠点を超えていくことで、より可能性を拓かせていくことが出来ると思います。

 昨年の3月末、約1年間のアメリカでの研究生活を終えて帰国した際に、電車の中が妙に黒く感じられ、非常に奇異な感覚におそわれました。電車に乗っている人が、みんな同じに見えるのです。ビジネスマン、ビジネスウーマンは、こぞってダーク系の地味なスーツ。仕立てが良い、悪い、着こなしが洗練されている、いない、といった小さな違いはあっても、だいたい同じようなものです。顔は目をつぶって寝たふりをしているか、苦味つぶした表情のどちらか。これでは、ビジネスの世界から創造性や多様性なんて生まれないだろうなと思いました。その後、どこへ行っても黒い集団が目に付いてしまいます。講演会、学会、セミナー、ファーラム、どこも、ほとんどスーツ族で占拠されています。スーツを着ていない女性や若者はどこへ行ったのだろうと不思議に思いました。
 みんなと同じ世界にいると、いつしか同じ発想、同じ行動様式になってしまうのはあたりまえです。他の人と同じということは、自分で考えなくて済むので楽ではありますが、一つの価値観、一つの思考様式に支配されて、頭はどんどん固くなっていきます。自由な発想や多様性を重んじる価値観からはますます遠ざかっていきます。「会社は成長するべきである」というたった一つの価値観に支配されて、全員がそれに向かってひた走ります。社員一人一人は、成長がすべてではなく、成長は必ずいつかどこかで止まるものであると気づいていても、だれもそれを口には出さない(出せない)のです。かくして、いまも成長至上主義に取りつかれています(これは、いかなるものも永久に成長し続けることはありえないという大宇宙の法則に逆らっているので、まもなく限界にぶつかるでしょうが)。
 もう一つ、奇異に感じた例を挙げましょう。朝の通勤電車では、ほとんどのビジネスパーソンが一様に日経新聞を読んでいます。皆が同じことを知っていても価値がないのです。他の人の知らない情報にこそ価値があるのですが、全員が日経新聞を読んでいては、その情報には何も価値はありません(しかも間違ったことが書かれていることも結構あるのです)。そこで重要なことは、日経新聞から得た同じ情報であっても、それをどのように分析して、そこから他の人と異なる新しい情報をいかに創り出せるかです。これには、どうしたって考える力、思考力が必要です。みなと同じ思考様式では、一つの結論にしかたどり着かないのですから。
 三浦健次さんは、日本人とイタリア人を比較して面白い指摘をしています。日本人には「これはよく売れていますよ」というと買うけれども、イタリア人には「これはあなたに似合いますよ」といわなければ買わないそうです(確かに日本では、これはよく売れていますよ、と勧められることがしばしばありますね)。着こなし方をお客さんに考えさせるようなシャツは日本では売れなく、着こなし方を誰かが作って、それを教えてあげると売れるそうです。つまり自分の頭で考えて洋服をコーディネイトするのではなく、誰かが作り出した流行のスタイルを、雑誌を見て真似しているだけだというのです。大多数の日本人は自分の頭で考えないのですから、考えさせるような売り方は、これまでのところ日本では成功しないのでしょう。
 大多数の日本人は「多様性」、「柔軟性」、「思考力」をもっていませんので、これらをもっている若者には大いにチャンスがあります。しかし、これらを養うには日本の中だけにいては不可能ですから、どうしても外国へ旅しなければいけません。広い視野と、異質なものを受け入れられる度量は不可欠です。