BOPビジネス研究の有望テーマ(菅原の勝手なおすすめです)

 多くの学生の皆様から質問を受けますので、学生の皆さんによるBOPビジネス研究のために、今後の方向性をご紹介します。これまでに書かれたBOPビジネスの研究論文をほぼ網羅的に分析して得られた知見は、(1)共通する明確な定義がない、(2)モデル・理論がない、(3)主体が多様である、(4)環境インパクトが論じられていない、という4点です。まずこれら4点について、以下で簡潔に説明していきましょう。
 第一に、BOPに関する共通の明確な定義は存在しません。年間所得3000ドル以下をBOPとする基準には何の根拠もありません。では、どこで線を引くかという問題になりますが、これに正解はありません。便宜的に線を引いているだけですから、あまり定義にこだわっていると大局を見失いますので、こだわらないことです。そのうち、だんだんと定まってくるでしょう。JICAの定義が今のところ妥当かも。
 このように明確な定義がないということは他にもあって、たとえば多国籍企業の定義もそうなのです。かつてのハーバード大学の定義は、6カ国以上に直接投資を行って進出している企業というものでした。なんで6カ国なのか、5カ国では違うのか、ということについて説得的な理由はなく、まあこのくらいで線を引いとこうって感じです。国連では、一カ国以上としていますので、海外進出している中小企業もすべて多国籍企業として数えられています。いまは国連の定義が主流です。
 第二に、BOPビジネスについて、共通に合意を得られている理論やモデルがありません。これはまだ黎明期にあるBOPビジネス論ですから、まあ仕方がないことなのです。日本発のモデルとして、「レディ・モデル」を精緻化して世界に発信していきたいと思います。それ以外のモデルについても探求中です。理論の構築には、もう少し時間が必要です。
 第三に、BOPビジネスの主体の多様性です。プラハラッドが最初に唱えたBOPビジネス論では、多国籍企業がBOPビジネスを行うとされていましたが、その後の研究によって、多様性に富んでいることが分かりました。つまり多国籍企業、中小企業、NGO、政府組織です。さらに、菅原の最近の研究では、「利潤追求型」と「開発インパクト型」に二分できて、両者では行動原理に違いがあると思います。この分類と命名は、菅原が現時点で勝手に行っているものです。もう少し、研究を進める必要があります。
 第四に、BOPビジネスのインパクト評価です。トリプル・ボトムラインの視点から、経済インパクト、社会インパクト、環境インパクトの3つの次元から評価される必要があります。しかし、BOPビジネスの環境インパクトの研究は皆無に近いでしょう。小分け方式では、小袋や容器が捨てられて、環境にダメージを与えます。この辺の定量的・実証的な研究は行われていません。
 以上から考えると、今後の主要な研究テーマとして、理論・モデルの構築、BOPビジネス主体の違いによる行動原理の解明、BOPビジネスの環境インパクトの分析、この3つは大変興味深いメインストリームの研究領域でしょう。これ以外にも「持続可能なデザイン」は有望なテーマですが、菅原は門外漢です。大阪商大の安室先生の専門だと思いますので、お問い合わせ下さい。あとは、BOPでのイノベーションの成果を、先進国にもってくる「リバース・イノベーション」も、とっても面白いでしょうね。
 そして、もちろん「パートナーシップ」は必須のテーマですが、菅原はどう論じていいか今のところ分かりません。さらにもう少しスペシィフィックには、「土着化」を人類学の視点から論じるってのも面白いでしょうね(同志社女子大の院生が人類学からアプローチしたいと言ってくれたことから思いつきました)。「BOPビジネスにおけるマイクロファイナンスの活用」というテーマも重要です。いまのところ、このくらいかな。他にも面白い着想があれば教えて下さいね。単なる疑問でもOKですよ。疑問を発展させて、研究テーマにするのですから。