禍必ずしも禍ならず

 ある年配の方と話をしていて、人生はなんとも不思議で面白いと思いました。その方は、慶応を卒業して46年間一つの会社に勤めたそうです。今の大学生と同じように就職活動をして、大手の会社から狙っていったのですが、就職戦線異常ありで、次から次へと失敗。だんだんと選択肢がなくなり、まったくのたまたまで、そのとき募集していた会社に履歴書を出したところ合格。その後、46年間も働くことになったそうです。
 日本銀行元総裁の三重野先生は、あまり行く気はなかったけれども、たまたま日銀で募集があったので応募したそうです。そして、ついには総裁にまでなったのです。希望は他にあったそうですが、戦後の引揚者だったので、あまり選んでいる余裕はなく、早く働いて家族を養わなければならなかったので、とおっしゃっていました。
 まあ、こんな風に人生はたまたまで決まっていくことが多いようです。たまたま出会った場所でベストを尽くすことで、その後の道が拓かれていくのでしょう。4月から就職や進学する人の中には、そこが、自分の第一希望ではなく、新しい一歩を喜び一杯で踏み出せない人も結構いることでしょう(その渦中にあると挫折感一杯でどうしても暗くなりがちなんだけどね)。しかし、たとえそのような不満足な出発であったとしても、結果も不満足になるとはいえないのです。不満足な出発であっても、そんなことはほんの一時的なことにしか過ぎません。
 このことがつまり、有名な故事「人間万事塞翁が馬」ってことですよね。もっと簡単に言うと、「福必ずしも福ならず、禍必ずしも禍ならず」です。マイナスと考えられることでも、プラスにしていく。それが転禍招福(てんかしょうふく)。だから人生面白い。目先の出来事ばかりに囚われて、笑ったり泣いたりするのはやめようね。