行きつけの1000円カットで時代の動きを考える

 実家のある小樽へ行くと、必ず行きつけの1000円カットの散髪屋さんで髪を切ってもらいます。ここのご主人は、以前東京で1000円カットのQBハウスで働いていた方で、その時の大変興味深い体験談を聞かせてくれます。

 QBハウスは、いまやJR東日本の駅の多くにお店を構えて、急成長を遂げています。もともとは、証券会社を脱サラして、退職金1500万円で始めた会社だそうです。従来の床屋は、時間に追われるビジネスマンたちに、あまり必要とされていない髭剃り、耳掃除、肩もみなどのサービスを提供して、時間もお金もかかっていました。多くのビジネスマンは、こんなサービスは必要ないと感じていたのです(実際、アメリカの床屋は髪を切るだけで、このようなサービスはしません。考えが合理的なのか、単に不器用で出来ないだけなのかは分かりませんが)。そこで、自分が望む床屋、つまり早くて安い床屋を始めたわけです。これが大ヒットし、いまや直営店、フランチャイズ店、ともに数をどんどん増やしています。

 ここから得られる教訓は3つです(ポイントは、いつも、無理やりにでも、3つにまとめるのです)。まず、既存の理容室という概念にまったく影響されない「よそ者」だったからこそ、斬新なアイディアで、新しいスタイルの床屋を成功させることが出来たということ。初めから床屋の人間では、1000円カットという発想は決して生まれなく、サラリーマンというまったく畑違いの「よそ者」だったからこそ考え付いたことなのでしょう。

 第2の点は、技術革新が1000円カットを可能にしたということ。つまり、バリカンを使うからこそ(これを業界用語ではバリカットって言うんだって)、一日に多くの人のカットが可能になるそうです。はさみでカットしていては、一日100人くらいを相手にする1000円カットの店では、すぐに腱鞘炎になり、数ヶ月しかもたないとのことです。どの分野にいたとしても、それぞれの分野で新技術の動向に、いつも関心をもっていることが大切なんですね。

 第3に、床屋の世界でも二極化が進んでいるということ。高い料金で優れた技術を提供する店か、早くて安いサービスを提供する店のどちらかでなければ、今後は生き残りが難しくなっていくのです。3000円、4000円代くらいの中途半端な値段でやっているところは、どんどんお客がいなくなっているそうです。どの分野でも、高級店と低価格店という二極分化が進み、その中間が消滅していっています。(1027字)