チャンスは自分で逃す

 これまでの人生で、はっきりと、自分でチャンスを逃したと思うことが2回あります。一度は、高校3年生の時。つまらない授業をうけていて、時間がもったいないと感じ、そこで、授業を受けているふりをして、英単語を覚えるためのテープを聴くことは出来ないだろうかと考えました。小さなカセット・プレーヤーがあれば、髪を長くしてイヤホンを隠し、授業を受けているふりをして英単語が覚えられるのになあと思ったのです。その当時は、まだウオークマンがなく、カセット・プレーヤーといえば、録音機能が付いていないものなど、売れるわけがないと考えられていました。初めてソニーが再生機能しかついていないカセット・プレーヤーを商品化する際にも、売れるわけがないと、ずいぶんと反対があったそうです。しかし、その後の大成功は周知のとおりで、世界中の若者が利用するようになりました。
 ソニーより先に、小型の再生機能のみのカセット・プレーヤーのアイディアを思いついていたのですが、高校生の自分にはそれを商品化するほどの知識と行動力がなかったのです。いまでは、10代で起業するという若者も出てきていますが、当時はそんなことは考えられません。あの時、自分がアイディアを商品化することが出来たならば、今頃は遊んで暮らせたなと思います。
 もう一回は、1993年。ロスアンゼルスで開かれた学会で、研究報告をする機会を得ました。報告の後で、聞いていた一人の先生が自分のところに来てくれて、とても興味のある研究報告だったから、これからはemailで連絡を取り合おうといって、アドレスを教えくれたのです。しかし、恥ずかしいかな、その当時の自分にはemailがなんであるかさえ分からず、そのままにしておきました。あの時、emailがどのようなものであるかを調べて、インターネットの可能性に気づいていれば、今頃はいIT長者になっていたと思います。1993年では、日本人は誰もインターネットのことを知らなかったと思います。
 こうして、はっきりと、みすみす自分でチャンスを逃したと思うことが、最低2回はあるのです。これ以外にも、気づかずに逃していることは、きっと多くあるに違いありません。そう、チャンスは自分で逃すのです。
 「これをやって何になるのですか?」と、やる前に聞いてくる学生がいます。こういうタイプの学生は、自分でチャンスを逃す典型です。何事もやってみなければ分かりません。にもかかわらず、やる前から頭で考えてしまって、勝手に自分で答えを出しまうのです。結局何も行動せず、何も起きないのです。こういう思考回路が身についてしまっていると、それをなかなか直すことは出来ないでしょう。そして、自分でチャンスを逃すのです。
 「まず、やってみる」、これが一番大切なことですね。そして、やれば道は開けるのです。