旅、感動、成長

 人生で最も素晴らしいもののひとつは、感動でしょう。どう生きたって、人の一生は一回ですから、同じ生きるなら、大きな感動と喜びの多い人生のほうが、楽しいに決まっています。ところが毎日を同じように生きていると、時間に流されて、感動や喜びを感じることが少なくなってしまいます。特に可能性が無限に開けている若いときを、感動や喜び少なく過ごしてしまうのは、とてももったいないことです。
 感動してこころが大きく震えるということは、いろいろなことを通して経験できますが、その一つは、なんといっても旅行です。特に、外国をツアーではなく個人で旅行すると、多くの感動と他では得がたい経験がたくさん出来ます。これは、いくら人の話を聞いても駄目で、自分で経験するしかありません。
 「かわいい子には旅させろ」とは、先人から今日に伝わる英智の一つです。人間は、他の人に言われても変わることはできませんが、自ら経験して気づいたときに新たな成長への一歩を踏み出せるのではないでしょうか。ここでのメッセージはシンプルです。「とにかく外国を旅して、いろいろ失敗を重ねて、素晴らしい感動をたくさんしよう」です。人生には、お金では決して買うことの出来ない多くの感動があります。
 やはり何事も最初の経験は強烈で、自分が初めてアメリカを訪れたときの事は、かなり鮮明に記憶しています。そして、とても多くの影響を受けたと思います。大学生のときに、LA(日本でよく聞くロスというのは和製英語で、すごくダサい。アメリカでは通じない)の空港に、とっても緊張して一人で着いたときのことははっきりと覚えています。その後、アメリカは毎年のように訪れているので、いまではどこへ行ってもあまり感動することはなくなってしまいましたが、初めてのときは感動の連続でした。
 その一つは、サンフランシスコのゴールデンゲート・ブリッジ近くのビーチに行ったときです。かなり波が高かったので、日本なら「遊泳禁止」という看板がかならず立っているだろうと思われるところでした。しかし、そのビーチには「You can swim here at your own risk.(自分の責任で遊泳可)」とあったのです。これには驚きました。あれもしてはいけない、これもしてはいけない、というのが日本の一般的な傾向ですが、アメリカはその正反対で、自分の責任で何でもやってみろ、というのです。あの看板を見たとき、とっても感動したことをいまもはっきりと覚えています。「失敗を恐れず、チャレンジしてみる。失敗したって、そこから多くのことを学び、またチャレンジすればいい」というチャレンジ・スピリットは、その後の自分の生き方にも大きな影響をあたえてくれたと思います。「何も新しいことをせず、したがって何も失敗はしないけれども、何の進歩もない」という生き方は大嫌いです。
 もちろんすべてのものには長所と短所があります。国、組織、個人すべてにあります。アメリカにも短所はたくさんありまして、これにも感動します。日本人からするとバケツのように思える容器でコーラを飲んでいるのですから、その姿にさえ初めは感動しました。しかし、これでは体に悪いだろうなと思います。日本では決して見たことのないような肥った体型の人(アップル体型という)が、のっしのっしとたくさん歩きまわっています。この人たちのお腹の肉を削って、飢えに苦しむ人達にあげたら多くの人が救われるだろうと、冗談ではなく思います。
 世界で最も多くのエネルギーを消費するのがアメリカです。一人当たりのエネルギー消費量で比較すると、アメリカ人一人の消費量は、発展途上国の人の80人分くらいに匹敵するそうです。アメリカが最も地球に優しくない国です。発展途上国での人口増加が問題とされていますが、実はアメリカの人口が減ることが、最も効果的なことではないでしょうか。
 というように、様々な国に行くと、それぞれの長所、短所がよく見えてくるので、それらを通していろいろな事を自分の頭で考えるようになります。これがとっても大切です。「自分の頭で考える」、これが、今の多くの日本の若者に最も欠けていることだと思います。「猫に魚を一匹与えると、その日一日は飢えないが、魚の獲り方を教えると一生飢えない」という素晴らしいユダヤの格言があります。ここでの魚とは知識のことです。つまり誰か(親や学校の先生)から知識を与えられても、それはすぐに古くなり役立たなくなります。それより、自分で考えて知識を生み出す力を身につけておけば、一生その力で素晴らしい人生を生きていくことが出来るのです。
 与えられることをただ待っている受身の人生ではなく、自ら行動して、失敗を重ねる中から学び、自分の頭で考え、自分の行動に責任を持って生きていく、そういう生き方がこれからますます求められるでしょう。そこには、きっと多くの喜びと感動に満ちた素晴しい人生があります。さあ、昨日より今日、今日より明日と、新しい一歩を踏み出し、未来を拓いていきましょう。「常歩無限」。