BOPが誤解まみれで広がらないように

 平野氏(元ヤクルト本社専務取締役国際事業部長)より電話をいただきました。友人のやなぎさわ氏がムハマド・ユヌスグラミン銀行総裁と対談している記事が、財界2月23日号に掲載されているので、それを読んで意見をほしいということです。中でも、ユヌス氏が「私はBOPを好みません」(p87)と述べている点が気にかかるとのこと。
 ユヌス氏の発言はBOPに対する誤解から生じているものの、確かにBOPを市場とのみ捉えているのでは、彼の主張は正しいと思います。しかし、BOPビジネスの本質は3つです。(1)貧困層のニーズを満たし、(2)所得をもたらし、(3)自立を促す。ニーズを満たすだけならば、単に売りつけているだけです。BOPの人たちをパートナーとして、価値を共有するところに、BOPビジネスの真骨頂があります。
 ユヌス氏のような影響力のある人が、誤解に基づいて誤った発言をすると、多くの人を迷わせてしまうことになります。誤解に基づく発言を信じてしまう、または自分が、誤解に基づいた発言をしてしまう。こういうことって、いたるところで結構あるので気をつけなければなりません(と自分自身に言い聞かせます)。
 菅原も、BOPという言葉は嫌いでした。B = bottom(底辺)って、失礼な話ですよね。アメリカ人のおごりと尊大さを感じます。その後、それに気づいてB = baseに変えたのですが、いまだに日本の新聞や雑誌ではボトムとして紹介している記事もあります。このように一旦広まってしまうと一人歩きするので、要注意です。
 BOPに代わる何かよりよい言葉はないかと思案中です。菅原も嫌いだったので、研究を始めた当初の論文では使っていませんでした。最近はBOPがキーワードとなってしまったので、いつのまにか意識せず使うようになっていました。ちょっと反省です。Multinational Corporations and Global Poverty Reduction(2006)って本があって、これには国際ビジネスの一流の研究者がずらっと寄稿しています。この中では、BOPはただの一度も使われていません。デンマーク外務省は、Responsible businessという言葉も使っていますが、これもなんだかピンときません。
 BOPが誤解まみれで広がってしまうと、誰にとってもよくありません。BOPビジネスには日本人こそ向いているので、日本発の名前を考え出せないものかな。以前は、このことをずーっと考えていたのですが、いつのまにかBOPになれてしまって忘れていました。